重松清という作家の広大な著作群において、「どれが一番の傑作か」という議論は、文芸ファンの間でも熱い意見交換が交わされ続けています。数々の名作を輩出してきた重松文学ですが、批評家評・読者支持率・社会的影響力の3軸を精査すると、頂点に君臨する作品群の輪郭が浮かび上がってきます。
なかでも重松清 最高傑作の評判において必ず名前が挙がるのが、2002年に刊行された長編小説『流星ワゴン』と、2008年に世に出た『とんび』の2作です。この2作は、いずれも「家族」「父親」という重松文学の根幹テーマを扱いながら、アプローチが鮮やかな対極を成しています。
流星ワゴン ドラマ原作としても名高い同作は、妻の裏切り、息子の家庭内暴力、自身のリストラによって人生のどん底に突き落とされた主人公が、不思議なワゴン車に乗って過去へ時間旅行するSF的構成を採用しています。特筆すべきは、同年代の姿となって現れた実の父親との旅路です。生前は相容れなかった父親の孤独や覚悟を追体験することで、主人公が自身の人生を取り戻していく展開は、30代から50代の男性読者を中心に「魂が震えた」「生き直す勇気をもらった」と絶大な反響を呼びました。
一方、とんび 泣ける感動名作として広く知られる同作は、不慮の事故で最愛の妻を亡くした不器用な男・ヤスが、周囲の人情に支えられながら一人息子のアキラを男手一つで育て上げる直球の人間賛歌です。2013年のTBS日曜劇場(内野聖陽主演)や2022年の映画版(阿部寛主演)など、幾度も映像化されている事実は、この物語が持つ普遍的な情感の強さを物語っています。昭和から平成へと移り変わる時代背景のなかで、親が子を想い、子が親の背中を見つめ返す姿は、涙なしに読み進めることができません。
さらに、短編の名手としての評価を決定づけたビタミンF 直木賞受賞作(2000年)も外せません。思春期の娘と父親の埋まらない距離感、家庭内での居場所のなさといった日常の澱を切り取った全7編は、読後に心のビタミンを補給されたような温かな余韻を残します。壮大なドラマ性を求めるなら『流星ワゴン』、純粋な涙と情愛を求めるなら『とんび』、そして短時間で重松節の真髄を味わいたいなら『ビタミンF』こそが、代表作の冠にふさわしい選択肢となります。