一夫多妻と聞いて多くの日本人が連想するのが、アメリカのモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)だろう。ここで重要なのは、主流派のモルモン教会は1890年に一夫多妻を公式に放棄しているという事実だ。現在、主流派の教会員が一夫多妻を実践すれば破門される。一夫多妻を続けているのは、主流派から分離した「原理主義モルモン」と呼ばれる少数派グループである。
代表的なのが、ユタ州とアリゾナ州の州境に広がるコミュニティに住むFLDS(ファンダメンタリスト派末日聖徒イエス・キリスト教会)だ。2026年現在も、このグループの一部では十代の少女が年配男性に「精神結婚」として嫁ぐ事例が報告されており、アメリカの司法当局による摘発と社会的批判が続いている。過去には教団の預言者だったウォーレン・ジェフスが未成年者への性的暴行で逮捕され、終身刑に服している。報道各社の取材によれば、FLDSの元信者たちは「教団内部では、若い女性が複数の妻として配分されることが神の祝福と教えられていた」と証言している。これは宗教的自由という名の下で行われた、明らかな人権侵害の構造だ。
ネット上では「モルモン教=一夫多妻」という単純な誤解が根強い。だが正確には、「かつて一部で教義とされ、現在は分派集団によって非合法に継続されている」というのが実態である。この区別を知らないままの議論が、いかに的外れなものになり得るかを示す好例だ。