タトゥーを巡る日本の法制度と医療現場では、長年にわたり大きな地殻変動が起きています。その象徴が、彫師の法的地位をめぐる記念碑的な司法判断です。
かつて厚生労働省は2001年の通知に基づき、「針先に色素を付けて皮膚に突き刺す行為は医師法第17条の医業に該当する」との見解を示していました。これを受け、2015年に大阪府の彫師・増田太輝氏が医師法違反で略式起訴された事件は、表現の自由と職業の自由を揺るがす一大裁判へと発展しました。
2020年9月、最高裁判所第二小法廷は検察側の上告を棄却し、「タトゥー施術は医行為に当たらない」として無罪判決を確定させました。判決理由は、「医療および保健指導を目的とする行為ではなく、装飾的・美術的意義を持つ風俗的・芸術的営みである」とし、医学的判断や技術を不可欠とする行為ではないと結論づけたのです。これにより、長年グレーゾーンに置かれていた彫師という職業の違法性は完全に払拭されました。
しかし、法的な無罪と医学的リスクの有無は別問題です。タトゥー施術者が直面する極めてシビアな医療現実が以下の2点です。
タトゥーインクの成分とMRI検査時の火傷リスク
タトゥーの施術を受けた人が病院でMRI(磁気共鳴画像装置)検査を受ける際、検査を拒否される、あるいは免責同意書の署名を求められるケースが頻発しています。原因は、タトゥーインクや墨に含まれる酸化鉄、酸化チタン、銅、アルミニウムなどの金属微粒子です。
MRI装置が発生させる強力な高周波磁場(RF波)の中に金属成分が存在すると、電磁誘導によってインク内部に微小電流が発生し、局所的な発熱を引き起こします。これにより、皮膚が1度から2度の火傷(熱傷)を負う事故が国内外で報告されているためです。また、金属が強力な静磁場を乱すことで、患部の画像に「アーチファクト」と呼ばれるノイズや歪みが生じ、正確な画像診断が不可能になるという診断上のリスクも孕んでいます。
タトゥーと生命保険加入の審査基準
民間生命保険の新規加入時において、タトゥーの有無は厳格な告知事項に該当します。告知を隠して加入した場合、告知義務違反として保険契約の解除や給付金の不払い処分が下されます。
保険会社がタトゥー所持者を厳密に審査する主因は、衛生管理が不十分な環境での施術によるB型肝炎・C型肝炎ウイルスやHIVなどの血液媒介感染症の罹患リスクです。これらは将来的な肝硬変や肝臓がんの発症リスクを高めるため、引受基準が極めて厳格になります。さらに、反社会的勢力排除条項との兼ね合いから、サイズや部位にかかわらず「加入謝絶(引受拒否)」、あるいは「特定部位・特定疾病の不担保」「割増保険料の適用」という重い条件付き契約となるのが一般的な業界標準です。