地域住民の命を守る最前線に立つ北海道猟友会の支部が、相次いで自治体からのヒグマ駆除要請を拒否・辞退する事態に発展した発端は、2018年に北海道砂川市で発生した1件の発砲事案にあります。この事件を巡る行政処分と長期化した裁判闘争こそが、全国のハンターたちを絶望させ、出動辞退という苦渋の決断へ追い込んだ直接の引き金です。
当時、砂川市と地元警察の要請を受け、住宅街近くに出没した体長約1.4メートルのヒグマを駆除した地元猟友会の支部長は、後日、北海道公安委員会から「建物の方向に向けて発砲し、銃刀法違反に該当する危険性があった」として猟銃所持許可を取り消す行政処分を下されました。ハンター側は「背後に高さ8メートルの土手があり、安全を確認した上での発砲だった。現場の警察官も発砲を容認していた」として処分の取り消しを求めて提訴。一審の札幌地裁は処分を取り消したものの、二審の札幌高裁では一転して公安側の主張を認め、取り消し処分を妥当とする逆転判決が言い渡されました。
この司法判断が現場に与えた衝撃は計り知れません。現場に駆けつけたベテランハンターが、当時の特番インタビューや手記で語った「警察や役場に頼まれて命がけで撃ったのに、後から『危険だった』と銃を取り上げられ、犯罪者扱いされる。これでは怖くて誰も引き金を引けない」という悲痛な叫びは、全国の狩猟関係者の総意となりました。
銃の所持許可を失うことは、ハンターにとってライフワークや生活基盤そのものを奪われることを意味します。現場の警察官がその場で安全を確認して発砲を促したとしても、後から公安委員会によって処分される可能性があるという「免責なき危険業務」の実態が浮き彫りになった結果、北海道内の複数の猟友会支部が「行政が明確な法的責任と安全を担保しない限り、市街地での駆除要請には応じられない」と辞退を表明する事態に至っています。