イッシュ地方の建国神話において最も重要な焦点となるのが、かつて双子の英雄とともにひとつの国を築き上げたとされる元の一匹のドラゴンの存在です。伝承によると、この原初のドラゴンは双子の兄弟と強い絆で結ばれ、人とポケモンが手を取り合う理想郷を拓くために尽力していました。しかし、兄弟の間で「真実(客観的事実やあるべき本質)」を重んじる兄と、「理想(主観的信念や未来への希望)」を信じる弟との間で対立が勃発します。
英雄たちの相容れない主張の激化を受け、その身を預けていた一匹の強大なドラゴンは、真実を求める兄に従う白陽のドラゴン「レシラム」と、理想を追い求める弟を支える黒陰のドラゴン「ゼクロム」へと真っ二つに分かたれました。イッシュ地方伝説の特異性は、完全な善悪の二元論ではなく、双方が正当な哲学を持っていたがゆえに分裂が不可避であったという点にあります。
そして、本体が二極に引き裂かれた際、世界に取り残された抜け殻の身体から生じたのが第三のドラゴン「キュレム」です。キュレムは失われた自らの失われた半身、あるいは失われた自己の欠片を求め続け、極低温のエネルギーとともに氷山のような凍てつく姿でジャイアントホールに潜んでいたと伝えられています。陰陽思想における「太極(万物の根源)」が白と黒に分かれ、均衡の失われた境界(隙間)としてキュレムが生み出されたという構図は、歴代の伝説ポケモンの中でも際立って緻密な世界観の構築を感じさせます。