シャルトル大聖堂を訪れた者が誰しも立ち尽くすのが、堂内を深遠な群青に染め上げるステンドグラスの圧倒的な美しさです。俗に「シャルトルブルー(Bleu de Chartres)」と呼ばれるこの色彩は、曇天の多い北フランスの淡い陽光すら吸い込み、内部に神秘的な透過光を投げかけます。シャルトルには12世紀から13世紀にかけて制作されたステンドグラスが、第二次世界大戦時の避難疎開作戦なども奏功し、約2,600平方メートルにもわたって奇跡的に現存しています。
長年、美術史や民俗学の世界では「配合レシピが完全に失われた失伝の技術」「天上の奇跡」と神秘化されてきました。しかし、近年の文化財保存研究所による分光分析や化学的非破壊検査の進展により、その技術的実態が解明されています。当時、シャルトル周辺のガラス職人たちが用いたのは、極めて純度の高いシリカ(珪石)に極微量のコバルト酸化物、さらに天然の不純物として含まれていた鉄や銅、マンガンが絶妙な比率で溶け込んだガラス原料でした。中世の溶解炉の温度コントロールによる微細な気泡や厚みのムラがプリズムの役割を果たし、単一の化学塗料では到底再現できない、揺らぎと深みのある青を生み出していたのです。
特に南側側廊にある12世紀屈指の傑作「美しき絵ガラスの聖母(Notre-Dame de la Belle-Verrière)」は必見です。燃え盛るルビーレッドの背景の中に、深いシャルトルブルーの衣をまとった聖母マリアが浮き上がる構図は、色彩の対比理論が確立される数百年も前に、職人の直感と経験値によって計算し尽くされていました。中世の人々にとって、ステンドグラスは文字の読めない庶民に向けた「光の聖書」であり、シャルトルブルーはその崇高な教義を地上に降臨させるための視覚装置だったのです。