『コーカサスの白墨の輪』(原題:Der kaukasische Kreidekreis)は、劇作家ベルトルト・ブレヒトが第二次世界大戦中の1944年、アメリカ亡命期に書き上げた叙事詩的演劇(叙事的演劇)の金字塔です。観客を劇の感情に没入させず、客観的・批評的に社会構造を捉えさせる「異化効果」を駆使した劇作術が全編に散りばめられています。
物語の土台を理解するために、主要な登場人物と力関係を整理しておきましょう。
【主要登場人物の相関関係】
- グルーシェ・ヴァフナゼ:総督邸の心優しき厨房女中。反乱の炎の中で見捨てられた赤ん坊ミヒャエルを救い、過酷な逃避行の末に育てる主人公。
- ミヒャエル:殺害された総督とナテラの間に生まれた幼子。莫大な遺産の相続権を持つ。
- ナテラ・アバシヴィリ:総督夫人でありミヒャエルの生母。反乱時、自らの豪奢な衣装をトランクに詰めることに執着し、我が子を置き去りにして逃亡する。
- シモン・ハハヴァ:グルーシェと結婚の約束を交わした純朴な兵士。従軍後、グルーシェのもとへ生還する。
- アズダク:乱世のどさくさで裁判官に祭り上げられた風変わりな村の書記。貧民に味方し、腐敗した支配階級を嘲笑う破天荒な判決を連発するキーマン。
- ユスプ:グルーシェがミヒャエルを認知させるために偽装結婚した「死にかけの男」。のちに兵役逃れの仮病だったことが判明する。
物語は、グルーシェの無償の愛と苦難の旅路を描く前半部と、奇妙な裁判官アズダクの誕生と活躍を描く後半部がやがて合流し、白墨の輪による運命の裁判へと雪崩れ込んでいきます。