平安時代初期、遣唐使の廃止(894年)を契機として、中国風の様式から日本独自の感性に根ざした「国風文化」が花開きました。その美意識の集大成ともいえるのが、着物の衿元や袖口、裾から覗く色の重なりを楽しむ「かさねの色目(襲色目)」です。
貴族たちは、単に好きな色を並べたわけではありません。日本の豊かな四季の移ろいを布地の上に再現するため、花や草木、季節の情景に見立てた数百種類に及ぶカラーコーディネートの法則を確立しました。
【季節を彩る代表的なかさねの色目】
- 春「梅がさね」:表が白、裏が紅。まだ寒さが残る早春に凛と咲く白梅の気品を表現。
- 夏「花菖蒲(はなしょうぶ)」:表が薄萌黄(淡い緑)、裏が紫。初夏の水辺に咲く菖蒲の鮮やかさを再現。
- 秋「紅葉(もみじ)」:表が赤、裏が濃い黄。山々が赤と黄色に染まりゆく錦秋の情景を映す配色。
- 冬「雪の下(ゆきのした)」:表が白、裏が紅梅。降り積もった真っ白な雪の下で春を待つ紅梅の蕾を象徴。
季節の時期がわずかでもずれた配色を着ることは、宮中では「風流を解さない無教養な者」として厳しい嘲笑の対象となりました。色の組み合わせ一つに教養、観察眼、美意識のすべてが試される、極めて高度なカルチャーが存在していたのです。