『方丈記』が成立したのは鎌倉時代初期の建暦2年(1212年)とされています。平安末期から鎌倉初期にかけての日本は、源平合戦などの政治的動乱だけでなく、凄まじい自然災害が立て続けに都を襲った未曾有の災厄期でした。
作品の前半では、長明が実際に体験した「五大災厄」が生々しいルポルタージュとして記録されています。
1. 安元の大火(1177年):都の3分の1を焼き尽くした大火災。
2. 治承の辻風(1180年):竜巻によって多くの家屋が一瞬で倒壊。
3. 福原遷都(1180年):平清盛による強引な遷都と、それに伴う京都の荒廃。
4. 養和の飢饉(1181年〜1182年):干ばつや疫病により、道端に無数の死体が溢れた大飢饉。
5. 元暦の大地震(1185年):京都一帯を揺るがし、山が崩れ海が傾いた大地震。
どんなに立派な都を築いても、火災や地震の前には一瞬で灰燼に帰す――。この残酷な現実を目の当たりにした長明だからこそ、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という冒頭文は、単なる観念的な詩句ではなく、血の通った現実の記録として胸に迫るのです。