米の品薄や価格高騰が社会問題化するたびに、ネット上では「国が備蓄米を放出すれば一瞬で価格は下がる」「大手卸や農家が倉庫に米を隠して暴利を貪っている」といった感情的な言説が拡散されがちです。しかし、流通の構造的実態を分析すると、これらは重大な誤解に基づいていることがわかります。
第一に、政府備蓄米の法的な位置づけです。備蓄米は「10年に一度の大凶作」や深刻な供給途絶に備えるための安全保障装置であり、市場価格の微調整を目的としたオペレーションは法律上想定されていません。仮に備蓄米を安易に安値で大量放出すれば、次年度以降の民間流通価格が暴落し、ただでさえ高齢化と赤字に苦しむ国内生産者の離農を一気に加速させる破壊的トリガーになりかねません。
第二に、倉庫での「在庫抱え込み」疑惑です。現代の倉庫保管には多額の電気代(定温倉庫の空調費)と金利負担が発生します。長期保管すれば品質劣化のリスクを負うため、卸売業者が意図的に出荷を止める経済的合理性は皆無に等しいのが実情です。現在の高価格は、生産資材の高止まりと、異常気象による1等米比率の低下、そして集荷現場での激しい争奪戦がもたらした「コストプッシュ型」の必然的帰結なのです。