地方の閉館旅館に必ずと言っていいほど付きまとうのが、インターネットやSNS上で拡散される「心霊スポット」「廃墟探訪」といったセンセーショナリズムです。検索エンジン上でも「鈍川温泉 皆楽荘 廃墟」というサジェストワードが見受けられますが、ここには倫理的にも法的にも大きな誤解とリスクが存在します。
第一に、皆楽荘の建物は放置されているように見えても明確な管理権・所有権が存在する私有地です。「廃業しているから自由に入れる」という認識は明白な誤りであり、敷地内への無断立ち入りは刑法第130条の「建造物侵入罪」に該当します。過去にも全国の温泉街の廃旅館において、侵入者の書類送検事案や警察によるパトロール強化が報じられており、不用意な好奇心で近寄る行為は厳に慎まなければなりません。
第二に、物理的な安全上の盲点です。築年数を経た木造・鉄骨混在の建物は、長年の雨漏りや湿気により床板の腐食、階段の手すりの脱落、さらにはアスベスト(石綿)含有建材の劣化による飛散リスクを孕んでいます。万が一敷地内で踏み抜き事故や滑落を起こした場合、電波の届きにくい渓谷沿いでは救助活動すら難航します。「廃墟探訪」と称して私有地を面白半分に撮影・発信する行為は、不法侵入となるだけでなく地域住民の生活の平穏を脅かす迷惑行為に他なりません。