弟切草の葉を太陽の光に透かして見ると、まるで針で突いたような黒い斑点(黒点)と透明な斑点(明点)が無数に散らばっているのが確認できます。この不気味な斑点もまた、伝説のリアリティを補強する決定打となりました。
伝承では、この黒点こそが「兄が弟を斬り殺した際に飛び散った血痕が草に染み付いたもの」と語り継がれています。しかし、現代の植物生理学において、この黒点の正体は色素成分である「ヒペリシン(Hypericin)」を含む油点(腺点)であることが判明しています。
ヒペリシンは光を吸収して活性酸素を生み出す強い光増感作用を持つ物質です。害虫や草食動物から身を守るための化学防御システムとして進化させた成分が、偶然にも血飛沫(ちしぶき)のような模様を形成し、古代の人々の想像力を刺激して恐ろしい物語へと昇華されたといえます。