「社外に対しては常に『弊社』を使っておけば安心」と思い込んでいるビジネスパーソンは少なくありません。しかし、これは危険な誤解です。社外向けのやり取りであっても、弊社を使ってはいけない場面が明確に存在します。
1. 公的文書や契約書での使い方
売買契約書、秘密保持契約書(NDA)、利用規約などの法的拘束力を持つ文書において「弊社」を用いるのは不適切です。契約は当事者同士が対等な権利・義務関係を結ぶものであるため、一方の当事者が謙譲語で自らを卑下することは法解釈の観点からも推奨されません。契約条項では「甲・乙」と定義するか、「当社」という客観的な一般名詞を使用するのが確立されたルールです。
2. プレスリリースや広報発表
自社の新製品発表や決算速報、人事異動などの公式アナウンスは、不特定多数の社会全体に向けた中立的な事実開示です。特定の取引先に対するへりくだりは不要であり、信頼性と客観性を担保するため「当社は本日、新サービスを開始いたしました」と「当社」で統一するのがメディア・広報業界の共通基準となっています。
3. 自社の正当な権利を主張・反論する場面
不当なクレームに対する毅然とした対応や、法的措置を視野に入れた警告通知などにおいて過度なへりくだり表現を用いると、相手に非を認めたかのような誤解を与える恐れがあります。立場を明確にして対等に交渉を行う局面では、「当社としては承服いたしかねます」と毅然とした語彙を選択するのがプロフェッショナルの判断です。
4. 小社や弊行など類似表現の使い分け
組織形態によって、より細分化された謙称が存在します。出版業界で好まれる「小社(しょうしゃ)」、銀行員が用いる「弊行(へいこう)」、信用金庫の「弊庫(へいこ)」、士業事務所の「弊所(へいしょ)」、学校法人の「本校/当校」などです。小社や弊行など類似表現を正しく把握しておくことで、相手の業界に応じたスマートな意思疎通が可能になります。