北鎌尾根で滑落が発生するポイントは、決してランダムではありません。事故現場の多くは、地形的な罠が凝縮された特定の危険箇所に集中しています。
1. 北鎌沢出合から「北鎌のコル」への登り|支ノ沢の誤進入
水俣乗越から天上沢を下り、北鎌沢出合から北鎌のコルを目指すアプローチでは、「北鎌沢右俣」と「左俣」の分岐判断が最初の関門となります。視界不良時や判断ミスにより誤って脆い側壁の「支ノ沢」へ入り込むと、進むことも退くこともできない草付きの急斜面(スタック状態)に陥り、土砂崩壊とともに数十メートル滑落するケースが後を絶ちません。
2. 独標(標高2,899m)前後のトラバースライン
北鎌尾根最大の難所とされるのが「独標」です。直登ルートは脆い岩壁の登攀力を要求され、千丈沢側を巻くトラバースルートは「踏み跡が幾重にも交錯する偽トレースの迷宮」となっています。誤ったバンド(岩棚)を進むと足場が途切れ、脆い逆層スラブで行き詰まります。無理に向きを変えようとした瞬間や、残置された古いハーケン・スリングに不用意に全体重を預けた瞬間に支点が破断し、谷底へと滑落する事故が頻発しています。
3. 槍ヶ岳基部〜小槍・大槍への最終岩壁
独標を越えた後も、北鎌平、小槍の基部、大槍直下まで気の抜けない岩稜が続きます。長時間の緊張と標高3,000m近い薄い酸素による「極度の筋力疲労・集中力低下」がピークに達する場所であり、ホールド(手がかり)とした大岩がそのまま剥がれ落ちる「浮石の荷重破壊」による滑落死が起きています。