SNSやQ&Aサイトで定期的にトレンド入りする深刻な悩みのひとつに、「便の中に食べたものがそのままの形で混ざっている。消化器官が壊れて機能不全に陥ったのではないか」というものがあります。
排便時にトウモロコシの粒、エノキタケ、トマトの皮、ゴマなどがそのまま排出されるのは、医学的に見て大半が「極めて正常な生理反応」です。食べたものがそのまま出る原因の根底にあるのは、人間の消化酵素が持つ構造的限界にあります。
植物の細胞壁を構成するセルロースやリグニンといった「不溶性食物繊維」を分解する酵素を、人間は体内に持ち合わせていません。草食動物であれば反芻や特殊な微生物の共生によってセルロースを分解できますが、人間の消化管では分解できない構造になっています。
したがって、以下の2つの条件が重なった場合、食品は物理的に原型を留めたまま排出されます。
第一に「咀嚼(そしゃく)不足」です。急いで食事をかき込んだり、スマートフォンの画面を見ながら上の空で咀嚼回数が10回未満のまま飲み込んだりすると、硬い外皮が破砕されません。胃酸や膵液はその外皮を溶かすことができず、内部の栄養分だけが一部溶け出しても、皮の形状はそのまま保たれます。
第二に「大腸の通過速度の一時的な上昇」です。冷たい飲み物を一気飲みした際や軽度の消化不良時など、通常よりも速いスピードで腸内を通過すると、腸内細菌による物理的破砕や発酵を受ける間もなく排出に至ります。体重減少や貧血、激しい腹痛を伴わない限り、食材の破片が便に見られること自体を過度に恐れる必要はありません。