そもそも、オリンピック選手村でコンドームがなぜ配られるようになったのか。その時計の針を巻き戻すと、1988年のソウル五輪に行き当たります。当時、世界はHIV(エイズウイルス)の感染拡大という未知の恐怖に直面していました。治療法が確立されていなかった時代、世界中から若く活動的な若者が一堂に会するメガイベントにおいて、感染症予防の啓発活動を展開することは国際的な急務だったのです。
ソウル大会の組織委員会は、選手村内で約8,500個のコンドームを試験的に配布しました。これが「選手村コンドーム」の公式な起源です。その後、1992年のバルセロナ五輪では配布数が一気に5万個へと跳ね上がり、大会を重ねるごとに規模は拡大していきました。単なる避妊具の提供にとどまらず、「セーファーセックス(安全な性交渉)」を啓発するグローバルなプラットフォームとしての役割を帯びるようになったのです。
IOC公式発表コンドームの理念においても、選手村は治外法権の歓楽街ではなく、国際的な公衆衛生モデルの発信地と位置付けられています。多種多様な宗教観や性教育のバックグラウンドを持つ国々から集まる選手たちに対し、偏見のないセクシャルヘルス教育の機会を提供するという大義名分が、この施策の根底に揺るぎなく存在しています。