一方で、支持者たちが強力な論拠として挙げるのが、古代ヘブライ語と日本語の共通点です。ヨセフ・アイデルバーグをはじめとする提唱者たちは、君が代のみならず、日本語の基礎語彙の中に3,000語以上ものヘブライ語類似語が存在すると主張してきました。
「帝(ミカド)はミガドル(高貴な者)」「鳥居(トリイ)はアラム語・ヘブライ語の門(トロイン)」「ソーラン節のヤーレンソーランはヘブライ語で解釈可能」といった言説は、雑学本やウェブメディアで頻繁に取り上げられます。こうした主張に対する日ユ同祖論学術的見解はどのようなものなのでしょうか。
比較言語学の基本原則において、言語の親族関係(同系統性)を立証するためには、単なる音と意味の類似(偶然の一致)ではなく、体系的な「音韻対応の法則」が存在しなければなりません。例えば、日本語とヘブライ語の間には以下のような決定的な構造的乖離があります。
- 言語系統の完全な分断:日本語は孤立した言語(あるいは日琉語族)とされ、ヘブライ語はアフロ・アジア語族のセム語派に属します。文法体系、基本語彙の語根構造が完全に異なります。
- 三子音語根(トリリテラル)の欠如:ヘブライ語を含むセム系言語は、単語の根幹が「3つの子音(例:K-T-B=書く)」で構成され、母音を変化させて派生語を作ります。膠着語であり母音調和的性質を持つ日本語の文法構造とは接点がありません。
- 基礎語彙の不一致:「目」「手」「火」「水」といった、借用されにくく数千年にわたって保存される最も基本的な「スワデシュ・リスト(基礎語彙リスト)」において、日本語とヘブライ語の間に有意な相関関係は全く認められません。
言語学の世界では、世界中の全く無関係な言語同士を比較しても、音素の組み合わせの確率上、数百語程度の「音と意味が似た単語」が必ず発見されることが統計的に証明されています。これを専門用語で「偶然の偽同根語(False Cognates)」と呼びます。君が代の歌詞解釈は、この音韻の類似を極限まで拡大解釈した君が代ヘブライ語偶然の空耳の産物に他なりません。