世界中のバーで毎夜無数にオーダーされるマティーニですが、そもそもなぜ「カクテルの王様」という絶対的な称号を手にすることになったのでしょうか。そのカクテルの王様理由を紐解くと、カクテルという文化そのものの進化と深く結びついていることが分かります。
最大の理由は、その研ぎ澄まされたシンプルさにあります。マティーニの基本構成は、基本的にドライジンとドライベルモットの2種類のみ。果汁やシロップで甘味・酸味を補うことができないため、氷の溶け具合、ステア(マドラーで氷と酒を素早く回し混ぜる技法)のスピードと回数、グラスの温度管理といったバーテンダーの基礎技術の巧拙が、一口目で完全に露呈します。国内外のコンペティションで数々の受賞歴を持つトップバーテンダーたちの証言でも「マティーニを頼まれれば、その店の技術と姿勢が一瞬で客に伝わる」と口を揃えます。素材をごまかせない究極の試金石であることが、プロ・愛好家双方から「王様」と畏敬される決定的な要因です。
さらに、わずかな配合比率の違いやガーニッシュ(副材料)の変更、ベーススピリッツの選定によって200種類以上ものバリエーションを生み出してきた懐の深さも理由のひとつです。まさにすべてのショートカクテルの頂点に位置し、無限の展開力を持つプラットフォームとなっているのです。
一方、このカクテルの誕生を巡るカクテルの王様由来には現在も複数の有力な説が存在しており、酒場文化のロマンとして語り継がれています。
- イタリアの老舗酒造メーカー説:19世紀半ば、イタリアのトリノでベルモットの製造を始めた大手メーカー「マルティーニ・エ・ロッシ社(Martini & Rossi)」のベルモットを使用していたことから、そのブランド名がカクテル名として定着したとする説。世界的に最も広く流布している記録です。
- カリフォルニア州マルティネス発祥説:1860年代のゴールドラッシュに沸く米国カリフォルニア州マルティネスのバーで、鉱夫が金塊を掘り当てた祝杯としてバーテンダーが考案したカクテル「マルティネス(Martinez)」が原型となり、後にマティーニへと転訛したとする説。
- ニューヨークの伝説的ホテル説:ニューヨークの老舗「ニッカーボッカー・ホテル」のヘッドバーテンダー、マルティーニ・ディ・アルマ・ディ・タッジャ氏が1910年代に考案したとする説。
諸説あるものの、19世紀末から20世紀にかけてアメリカの社交界で洗練され、禁酒法時代を経て世界中へと広まった歴史が、このカクテルを不動の地位へと押し上げました。