本作を語る上で欠かせないのが、クライマーズ・ハイ 実話としてのリアリティです。劇中に登場する地方紙「北関東新聞社」のモデルは、群馬県前橋市に本社を置く上毛新聞(じょうもうしんぶん)です。原作者の横山秀夫氏は、1979年から12年間にわたり同社に記者として在籍。1985年の日航機墜落事故発生当時は、遊軍記者としてまさに激震の渦中にいました。
多くの読者が気になる「主人公・悠木和雅には実在人物がいるのか」という点について、横山氏は過去のインタビューや自著の解説で「特定の誰か一人をそのまま模したわけではない」と語っています。しかし、社内政治の濁流に抗いながら全権デスクとして現場を指揮した悠木の孤軍奮闘には、事故当時の上毛新聞編集局で指揮を執った複数のデスク陣の苦悩と、何より横山氏自身が抱いた記者としての悔恨と自問自答が色濃く投影されています。
当時、人口200万人に満たない地方都市の新聞社に、世界中から数百人規模の報道陣が押し寄せました。通信設備も不十分な時代、山岳地帯からの原稿送稿、遺体安置所となった藤岡市民体育館の凄惨な光景、そして中央の全国紙に対する地方紙のプライドと劣等感――。作中で描かれるエピソードの多くは、横山氏自身が目撃し、体験した生々しい事実そのものです。