緋村剣心のトレードマークである左頬の十字傷。この傷は単なる戦いの名残ではなく、彼の人生を決定づけた幕末最大の悲劇と贖罪の象徴です。十字傷は一度につけられたものではなく、2つの異なる傷が交わることで形成されました。
1本目の傷は、長州派の暗殺者として活動していた当時、要人警護の任務に就いていた幕臣・清里明良を暗殺した際につけられたものです。清里は祝言(結婚)を間近に控えており、「死にたくない」という凄まじい生への執念と怨念によって、剣心の頬に消えない一筋の太刀傷を刻みつけました。
そして2本目の傷をつけたのが、清里の婚約者であった雪代巴です。復讐のために剣心に近づいた巴でしたが、彼の純粋さと背負う苦悩に触れるうちに惹かれ合い、偽装夫婦として暮らす中で真実の愛で結ばれます。しかし、闇乃武の策略により視力と自由を奪われた剣心が放った渾身の一撃が、彼を庇おうと割り込んだ巴ごと敵を両断。息絶える間際、巴の手から滑り落ちた小刀が剣心の頬をかすめ、清里の傷と交差する形で「十字傷」が完成しました。
「愛する人の命を自らの手で奪ってしまった」という拭えないトラウマと、巴が最期に遺した祈り。この傷は、剣心が維新後に「もう二度と人は殺さない」と誓い、流浪人として生きる決定的な原点となったのです。