婦人科医や公衆衛生の専門家が「生理中の大浴場入浴」に警鐘を鳴らす最大の理由は、他者への経血流出だけでなく、入浴者自身の身体に及ぶ深刻な感染リスクにあります。生理期間中の女性の体内は、通常時とは大きく異なる脆弱な状態に置かれています。
通常、膣内は「デーデルライン桿菌」と呼ばれる乳酸菌の働きによって酸性に保たれ、外部からの雑菌繁殖を防ぐ自浄作用が働いています。しかし、生理中はアルカリ性の経血が分泌されることで膣内の酸性度が低下し、さらに子宮口がわずかに開いているため、病原体が子宮内へと侵入しやすい無防備な環境になります。
さらに見落とされがちなのが、タンポンの取り出し用紐(ストリング)が引き起こす毛細管現象による湯水の逆流です。湯船に浸かると、外に出ている紐が温泉水を吸い上げ、雑菌を含んだ水分がタンポン本体へと伝わって膣内へ引き込まれてしまいます。温泉施設の大浴場は、レジオネラ属菌や大腸菌、緑膿菌など多様な微生物が存在する環境です。酸性度が低下した膣内にこれらの雑菌が送り込まれることで、子宮内膜炎や骨盤腹膜炎、重篤な場合はトキシックショック症候群(TSS)を引き起こす引き金になり得ます。
また、「入浴中は水圧で経血が出ない」という説も過信は禁物です。水中に静止している間は一時的に経血の流出が抑えられる場合がありますが、湯船から立ち上がった瞬間、水圧から解放された腹圧によって一気に経血が押し出される現象が起きます。タンプンの吸収限界を超えていた場合、洗い場や脱衣所までの動線で目に見える経血漏れを引き起こす事故は後を絶ちません。