体育館の壁が背負っているもうひとつの重大な使命が、運動中の「衝突防止安全対策」と大地震時における「非構造部材の耐震改修」である。
文部科学省が策定する「学校施設整備指針」や関連する安全点検の手引きでは、屋内運動場における激突事故を防ぐための厳格な記述が存在する。特に、バスケットボール競技におけるエンドラインから壁面までの安全領域が十分に確保できない狭小な体育館においては、「衝突の危険がある箇所への防護マットの設置」が強く指導されている。独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の過去の事故統計を見ても、レイアップシュート後の減速不足による壁面衝突や、ステージ角への激突による頭部外傷、頸椎損傷などの重大事故は後を絶たない。
これに対し、従来のような「マジックテープで縛るだけの簡易マット」は経年劣化で脱落したり隙間が開いたりするリスクが指摘されてきた。そのため現在では、壁面と完全に一体化するクッション壁の施工や、衝撃エネルギーを確実に吸収するJIS規格に準拠したセーフティパッドの設置が改修時の必須要件となっている。
さらに見逃せないのが耐震性の問題だ。2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震を経て、学校体育館は「指定避難所」としての重要性が再認識された。これまで体育館の耐震改修といえば「特定天井(吊り天井の落下防止)」に焦点が当てられがちだったが、大揺れによって重い腰壁パネルや高所の有孔ボード、照明器具が脱落する被害が各地で報告された。
文部科学省の学校体育館安全基準に基づき、壁の下地鉄骨への固定方法の多点化、ボードのビス止めピッチの厳格化、地震の揺れをいなす免震クリアランスの確保など、内壁自体の耐震改修工事が全国規模で進められている。壁はもはや単なる仕切りではなく、被災者の命を守る強固なシェルターの一部なのだ。