スパゲッティ・ナポリタンが誕生した歴史を紐解く上で、決して外せない舞台がナポリタン発祥の地 横浜に佇むクラシックホテル「ホテルニューグランド」です。1927(昭和2)年に開業した同ホテルは、関東大震災からの復興のシンボルとして国内外の賓客を迎えてきた名門として知られます。
太平洋戦争終結直後の1945年8月、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥が降り立ち、ホテルニューグランドはGHQ米軍接収期に入りました。約7年間に及ぶ接収生活のなかで、米軍将兵たちは軍用配給物資であったスパゲッティを茹で、塩、コショウ、そしてトマトケチャップを大雑把に和えただけの簡易食を日常的に口にしていたと記録されています。
その質素な光景を目撃したのが、当時のホテルニューグランド第2代総料理長・入江茂忠氏でした。入江氏は「進駐軍の将校たちに、ホテルの一流料理人としてもっと美しく、誇りあるパスタ料理を提供したい」と一念発起します。軍用レーションのケチャップ和えをそのまま真似るのではなく、フランス料理の確かな技術をベースに据えた、まったく新しいスパゲッティ料理の開発へと乗り出しました。
こうして生み出されたのが、正統派の元祖ナポリタンです。この料理が画期的だったのは、米軍の粗雑な食事をただ真似るのではなく、ホテルクオリティの洗練された西洋料理へと昇華させた点にあります。この情熱こそが、今日に続く洋食ナポリタン発祥の理由となりました。