晩年のモネを語る上で避けて通れないのが、70代から彼を苦しめ続けた重度の白内障です。水晶体が白濁することで、次第に黄色や赤系統の色ばかりが強調され、青や紫といった寒色の識別が困難になっていきました。
視界が霧のようにぼやけ、自らが意図した色が分からなくなる恐怖の中、モネは驚くべき執念を見せます。パレット上の絵の具の配置を正確に記憶し、チューブに書かれたラベルの文字を確認しながら調色を行いました。この時期の作品には、激しい筆致と燃え立つような赤やオレンジ、深い褐色が多用され、従来の穏やかな印象派絵画とは一線を画す迫力が宿っています。
周囲の反対を押し切って受けた眼科手術によって一時的に視力を取り戻したものの、今度は物が青く見える症状(青視症)に悩まされました。視覚の崩壊という画家にとって最大の絶望に直面しながらも、彼は絵筆を握り続けました。晩年の荒々しくも情熱的な『睡蓮』は、光を失いかけた巨匠が自らの内なる光を描き出した魂の記録です。