「ワニの死因と餓死説」は、この都市伝説の中でも最も劇的なクライマックスとして語られます。「巨大化の果てに巨体を維持する獲物を獲れなくなり、静かに餓死していく」というストーリーは一見説得力がありますが、フィールド調査が突きつける現実は大きく異なります。
野生下において「ワニは老衰死しないのか」という問いに対する正確な答えは、「老衰で動けなくなる前に、外的な要因で命を落とす」です。過酷な自然界では、わずかな筋力の低下や視力の衰えが命取りになります。体調を崩した高齢個体は、より若く血気盛んな同種のオスとのテリトリー争いに敗北して致命傷を負うか、最上位捕食者の座から転落して淘汰されるのが通例です。
また、成体のワニは外温動物(変温動物)であり、哺乳類とは比較にならないほど基礎代謝が低く設計されています。成体であれば一度の満腹で数ヶ月、場合によっては1年以上も絶食に耐えうることが生理学的に実証されています。「巨体を維持できずに飢えて死ぬ」という仮説は、哺乳類の代謝感覚を爬虫類に当てはめた初歩的な混同であり、餓死が主たる死因であるという科学的根拠は存在しません。実際の野生における主要な死因は、幼体期の被食、成体期における同種間の凄惨な闘争傷、感染症、そして異常気象に伴う水域の干上がりに伴う代謝破綻です。