草薙の剣の原初の名は天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)と呼ばれます。『古事記』や『日本書紀』の神話によれば、スサノオノミコトが出雲の地で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を討ち取った際、その尾の中から出現したと伝えられています。大蛇の頭上には常に暗雲が立ち込めていたことから、その名が付けられました。
天孫降臨を経て地上へと降り立った神剣は、やがて古代の英雄ヤマトタケル(日本武尊)の手に渡ります。東征の途上、敵の野火に囲まれたヤマトタケルが、この剣で草を薙ぎ払って難を逃れたエピソードから「草薙」の名が定着しました。
しかし、この神剣は英雄に栄光を与えるだけでなく、恐るべき結末をももたらします。ヤマトタケルが伊吹山の神を討伐する際、宮簀媛(ミヤズヒメ)の元に神剣を置いたまま素手で山へ向かった結果、山の神の怒りに触れて病に倒れ、非業の死を遂げたのです。神剣を手放したことが英雄の命取りになったという伝説こそが、神剣が帯びる宿命的な畏怖の原点となっています。