インターネット上で定期的にバズを生むのが、「バニラアイスにはビーバーの分泌液が入っている」という言説です。この情報の出どころは、ビーバーが縄張りを示すために分泌する「カストリウム(海狸香)」と呼ばれる物質にあります。
カストリウムはビーバーの肛門周辺にある香嚢(会陰腺)から分泌される油状の液体で、バニラやムスクに似た甘く複雑な芳香成分を含んでいます。米国食品医薬品局(FDA)でも安全な食品添加物(GRAS)としてリストアップされており、かつて香水やごく一部の高級食品のフレーバーとして利用された歴史的事実は存在します。
しかし、現代の市販食品にカストリウムが使われている可能性はゼロに近いのが実情です。ビーバーを捕獲・飼育して手作業で分泌物を採取するプロセスは極めて非効率であり、世界の年間採取量はわずか数百ポンド程度にとどまります。莫大なコストがかかるため、安価で大量生産が求められる一般的なお菓子やアイスクリームに利用する経済的合理性はまったくありません。