タイトルのみならず、個性豊かな登場人物たちのネーミングにも、異文化翻訳ならではの工夫と哲学が反映されています。
象徴的な存在であるカオナシの英名は「No-Face」です。直訳といえば直訳ですが、このカオナシの英語名と由来は海外ファンにきわめて強いインパクトを与えました。「顔を持たない=確固たる自己やアイデンティティを持たず、他人の欲望や声を模倣して肥大化する存在」というキャラクターの本質を、極限まで削ぎ落とした2単語で見事に言い表しているためです。欧米のカルチャーメディアでは、現代人の孤独や承認欲求を象徴するアイコンとして「No-Face」の名が広く浸透しています。
千尋を導く少年ハクは、劇中で本名である「ニギハヤミコハクヌシ」を明かしますが、英語音声では「Spirit of the Kohaku River(コハク川の主)」として説明的に補足されつつ、通常は「Haku」と呼ばれます。また、湯屋を取り仕切る湯婆婆は「Yubaba」または「Madam Yubaba」と尊称付きで呼ばれ、単なる邪悪な魔女(Witch)ではなく、組織を束ねる厳格な経営者としてのニュアンスが強調されています。
さらに、煤(すす)から生まれたススワタリは「Soot Sprites(煤の妖精)」、釜爺は「Kamaji」または「Boiler Man」と訳されるなど、日本の妖怪・八百万の神々という独特の概念が、英語圏の視聴者に自然と親しまれるよう配慮されています。