鶯谷のディープな食文化と歴史の重層性を語る上で欠かせない存在がいる。ドラマ『孤独のグルメ』でおなじみの俳優・松重豊だ。彼は関連メディアのインタビューで、鶯谷の居酒屋街や大衆食堂が持つ「気取らない食のロマン」を絶賛し、単身で暖簾をくぐる面白さを熱弁している。
しかし、鶯谷の魅力は居酒屋文化だけではない。北口から徒歩数分の場所には、明治の俳人・正岡子規がその晩年を過ごした「子規庵」がひっそりと佇む。病床に伏しながらも四季折々の庭を愛で、俳句や短歌の革新運動を推し進めた子規。昭和の歓楽街と明治の文豪が遺した静寂が、わずか数百メートルの圏内に同居する奇跡的なカオスこそが、この街の神髄と言える。