なぜブダペスト大会において、これほど多くの日本人選手が世界屈指の種目で躍進できたのでしょうか。スポーツ社会学やアスリート心理学の観点から分析すると、選手たちが無意識のうちに抱えていた「心理的バウンダリー(自他の限界を定める境界線)」の完全な崩壊が最大の要因として挙げられます。
かつての日本スポーツ界には、「日本生まれ・日本育ちの指導理論」を重視し、海外の指導者や環境へ身を投じることを一種の越境行為と捉える保守的な風潮が存在しました。しかし、チェコに単身拠点を置いた北口榛花や、米国フロリダのトップ環境(フロリダ大学・テンドゥ・グローバル・パフォーマンス・グループ)で日常的に世界記録保持者と練習を共にするサニブラウンは、既存の日本的ヒエラルキーから完全に脱却しています。
彼らにとって世界のトップ選手は「憧れの存在」ではなく、日頃からジョークを交わし、同じトラックでタイムを競い合う「日常の同僚」に過ぎません。この精神的なフラットさこそが、プレッシャーのかかる大舞台でも萎縮せず、自己の能力を極限まで発揮できる最大の武器となっています。同調圧力を打破し、自己の責任でトレーニング環境を選択する「個の自立」が結実したのが、ブダペストの地であったと言えます。