社頭で多くの参拝者が陥る最大の誤解は、「待ち人=未来の恋人・結婚相手」と直結させてしまう点にあります。おみくじの「待ち人」という言葉の起源は、平安時代から中世にかけての貴族社会や社寺参詣文化にまで遡ります。当時の文脈における「待つ人」とは、自らの人生や境遇を好転させてくれるあらゆる人物や便りを指していました。
都からの知らせを運ぶ使者、生活の困窮を救ってくれる支援者、あるいは人生の迷いを晴らしてくれる学問・信仰の師など、自己の力だけでは突破できない局面において「外部から訪れる恩人」の総称が待ち人でした。近代以降、恋愛成就を祈願する若年層の参拝が増加したことで意味の矮小化が進み、「恋人ができるかどうか」の占いとして消費される傾向が強まりました。
したがって、「待ち人来ず」と書かれていたからといって、「一生独身である」「現在のパートナーと破局する」といった短絡的な未来予知ではありません。その真意は、「外から都合よく助け船を出してくれる人物は現れない」「他人に依存して現状打開を図ろうとしても期待外れに終わる」という、冷徹かつ極めて現実的な警鐘なのです。