本作の評価を決定づけ、視聴者の胸を最も激しく焦がしたのが、長崎出身の仕立職人・周防龍一(綾野剛)と糸子の道ならぬ恋を描いたシークエンスです。
戦死した夫・勝(駿河太郎)の死後、女手一つで店と子どもたちを守り抜いてきた糸子の前に現れた周防。妻子を抱え、原爆によって家族を失った過去を背負いながら、繊細な手つきで紳士服を仕立てる周防の佇まいは、孤独な戦いを続けていた糸子の魂を深く撃ち抜きました。綾野剛が絞り出す「好いとっと…」という静かな長崎弁の告白は、朝の連続テレビ小説の枠組みを根底から揺るがす名シーンとして語り継がれています。
朝ドラという国民的番組において「妻子ある男性との不倫」を扱うことには、NHK内部でも強い慎重論が存在しました。しかし、演出陣は決して安っぽいメロドラマには堕とさず、互いの才能を認め合い、職人として、そして孤独な人間として魂が共鳴してしまう哀切を克明に描写。岸和田の商店街の冷ややかな視線や、不倫を厳しく断罪する世間の空気、そして親友・奈津(栗山千明)や北村(ほっしゃん。)らの複雑な感情を逃げずに描ききったからこそ、このエピソードは今なお「奇跡の神回」として称賛され続けています。