エアコンの室外機が吐き出す低周波ノイズ、深夜まで途絶えない幹線道路の重低音――。都市化が進んだ現代の住環境は、小さな昆虫たちにとって極めて過酷な音の戦場だ。最新のバイオアコースティクス(生物音響学)研究によると、環境騒音の激しい地域に生息する鈴虫は、無音の環境下に比べて鳴き声の音量を無理に上げたり、発声のタイミングを深夜帯へずらしたりする適応行動を見せている。
しかし、こうした過度なエネルギー消費は個体の寿命を縮める要因にもなる。かつては庭先や縁側で日常的に耳にすることができた涼やかな音響空間は、いまや意図的に保全しなければ消失してしまう絶滅危惧のインフラとなりつつある。