フランス・ロレーヌ地方の伝統料理であるキッシュ・ロレーヌは、濃厚なバターの風味とサクサクしたパイ生地の層が魅力ですが、手作りするとなれば生地の成形だけで30分以上、冷蔵庫での冷却時間を含めると1時間以上の拘束時間を強いられます。さらに市販の冷凍パイシートを利用しても、1パック数百円のコストと解凍待ちの時間がハードルとなっていました。
このハードルを一挙に打破したのが、餃子の皮を用いる手法です。餃子の皮は、薄力粉・強力粉・塩・水を高圧力で圧延して作られており、バターなどの油脂分を生地自体にほとんど含んでいません。そのため、焼成時に水分が急速に揮発すると、グルテン組織が引き締まり、パイ生地とは一味違う「極薄クラッカーのような心地よいパリパリ感」を生み出します。
調理科学の視点で見ても、餃子の皮の薄さは熱伝導を極限まで早めます。オーブンを200度に予熱して20分以上焼き上げる従来のキッシュに対し、餃子の皮を使ったレシピであれば、手軽なオーブントースターでわずか8〜10分前後の短時間加熱で中心温度が卵の凝固点(約70〜80度)に達します。外側の皮はメイラード反応によって素早くきつね色に色づき、内部のアパレイユ(卵液)はスフレのようにふんわり固まるため、時間対効果(タイパ)と食味のバランスにおいて極めて合理的な調理法なのです。