下顎が前に突き出て見える状態には、大きく分けて「歯並びの問題(歯性)」と「骨の大きさ・位置の問題(骨格性)」の2つのパターンが存在します。この2つは外見こそ似通って見えますが、根本的な構造や改善への道筋はまったく異なります。
顎が出ている人の特徴を観察すると、歯並びの噛み合わせにおいて下の前歯が上の前歯よりも前側に出ている「反対咬合」を伴うケースが大半を占めます。しかし、奥歯の噛み合わせが正常であるにもかかわらず、下顎の先端(オトガイ部)のみが前方に発達しているケースや、逆に上顎の成長が不全で相対的に下顎が目立っているケースも珍しくありません。
もう一つの鑑別ポイントとして、近年の美容医療や歯科領域で注目されるのがアデノイド顔貌 顎の違いです。アデノイド顔貌は口呼吸やアデノイド肥大によって下顎が後方へ後退し、下垂して「顎がない」ように見える状態を指します。一方、下顎前突は下顎骨が前方へ過剰発育している、あるいは上顎骨の後退によって下顎が前方へ突出している状態であり、顔貌の構造的ベクトルは完全に正反対に位置しています。
では、顎が出てる原因はどこにあるのでしょうか。臨床現場のデータや日本矯正歯科学会の知見によれば、骨格性反対咬合の大きな要因としてまず挙げられるのが「遺伝的素因」です。下顎の骨の大きさや成長パターンは親からの遺伝的影響を強く受けやすく、歴史的に有名な欧州ハプスブルク家の肖像画に見られる下顎突出のように、血縁関係を通じて発現する確率が高いことが分かっています。
一方で、成長期における「後天的な悪習癖」も見逃せません。幼少期に舌を前方に突き出す癖(舌突出癖)や、舌の位置が上顎に収まらず口腔の低い位置に落ち込んでいる「低位舌」、あるいは無意識の口呼吸、下顎を前に突き出す噛み癖などが長期にわたると、下顎骨の過剰な前方成長を促してしまいます。遺伝的素因をベースに、こうした成長期の習慣が拍車をかける形で、顕著な下顎前突が形成されていくのです。