日常の会話やビジネス記事では「兵站」「ロジスティクス」「サプライチェーンマネジメント(SCM)」が同義語のように混用されがちです。しかし、発祥の目的や適用される環境の前提条件には決定的な差異が存在します。
もともと軍事用語であった「兵站(ミリタリー・ロジスティクス)」は、敵による妨害や破壊工作、予測不能な戦況変化といった「極限状態(フォグ・オブ・ウォー:戦場の霧)」の中でいかに補給線を途絶させないかという、レジリエンス(抗堪性・回復力)に主眼が置かれます。一方、民間企業で発展した「ロジスティクス」は、平時における調達・在庫・輸送の効率化とコスト最小化を追求するものです。さらに発展した「サプライチェーンマネジメント」は、原材料の調達から最終消費者に至る商流・物流・情報流の全体最適を図る経営戦略手法を指します。
近年、地政学的対立や航路封鎖、異常気象による国際物流の寸断が多発したことで、平時の効率のみを求めた「ジャスト・イン・タイム(在庫を持たない生産方式)」の脆弱性が露呈しました。民間企業が抱えるサプライチェーンにも、軍事兵站が持つ「予備資源の確保」や「迂回路の二重化」というリスクヘッジ思想が急速に取り入れられています。