出光佐三の経営論を語る上で欠かせないのが、「人間尊重」と「大家族主義」という二大原則です。佐三は出光興産を単なる利益追求の場ではなく、働く人間が互いに信頼し合い、人間性を高め合う「道場」と位置づけました。
佐三が定めた社則や慣習は、当時の常識を完全に覆す異例のものばかりでした。
- クビ(馘首)なし:不況や経営危機を理由に従業員を解雇することは絶対にしない。
- 定年制なし:本人が働ける限り、何歳になっても働き続けることができる。
- タイムカードなし:時間を管理するのではなく、個人の自主性と良心を信頼する。
- 労働組合なし:経営者と社員は敵対関係ではなく「家族」であり、経営者自らが社員の最大の擁護者であるべきという考えから、争議のための組合を必要としなかった。
「事業の目的は金を儲けることではなく、人を育てることにある」「黄金の奴隷になるな」と繰り返し説いた佐三のスタンスは、従業員の忠誠心と士気を極限まで高めました。終戦直後の極限状態でも社員の誰一人として会社を去らず、泥まみれの重労働に耐えて会社を復活させた原動力は、佐三が注いだ絶対的な人間愛と信頼に対する現場の答えだったのです。