ひとくちにヤシの木といっても、世界には数千種類が存在し、その生態系や耐寒性能は根本から異なります。庭木として一般に流通している代表的な品種の特性を正しく把握しないままデザイン優先で選ぶことこそが、最大の失敗の引き金となります。
本州(関東以西の平野部)で最も安定した実績を誇るのがココスヤシ(ブラジルヤシやヤタイヤシなどの総称・交配種)です。ココスヤシの耐寒性は成木でマイナス7℃からマイナス10℃程度まで耐えうるとされ、積雪地帯を除けば冬期も屋外で十分に越冬可能です。樹高の生長スピードも比較的緩やかで、幹が太くどっしりとした優雅な曲線を描くため、個人住宅のシンボルツリーとして確固たる地位を築いています。
対照的に、もっとも警戒すべき存在がワシントンヤシ(ワシントニアパーム)です。カリフォルニアの街並みを思わせるスタイリッシュな姿と、苗木の流通価格が安価な点から安易に選ばれがちですが、その生長速度は驚異的です。年間で50センチから1メートル近く伸びることも珍しくなく、最終的には15メートルから20メートル以上の巨大化を遂げます。一般的な住宅街の庭に植えれば、10年も経たないうちに高所作業車を使わなければ剪定もできない怪物へと変貌し、維持費の破綻を招く主因となります。
また、リゾートホテルのプールサイドやカフェのテラスで頻繁に見かけるフェニックス・ロベレニーは、放射状に広がる繊細で優美な葉が魅力ですが、耐寒限界はマイナス2℃前後にとどまります。霜や凍結に極めて弱いため、無保護での露地植えが成功するのは南房総や伊豆半島、宮崎、鹿児島などのごく一部の無霜地帯に限られます。フェニックスロベレニーの育て方の基本は、冬場に鉢を室内や軒下へ移動できる環境を整えるか、完璧な防寒養生を施すことです。