水面に浮かぶ無数の花弁が、初夏の朝光を浴びて淡いグラデーションを描き出す。毎年6月中旬から7月上旬にかけて開催される「あじさい祭 水中華」の光景だ。境内の弁天池に約5,000株もの紫陽花が惜しげもなく浮かべられ、水面はまるで巨大なモザイク画のような華麗さに包まれる。
この幻想的な演出は、数年前からInstagramをはじめとするソーシャルメディアで爆発的な拡散を記録した。投稿された一枚の写真をきっかけに、日本全国のみならず海外からも撮影者が殺到する社会現象へと発展している。だが、ファインダー越しに見る世界と、現場の空気感はまったく異なる。冷涼な山の湧き水に揺れる生花の質感、周囲の杉林から漂う芳香は、デジタル画面では決して伝わらない。
水中華の設営は、傷んだ花を毎朝手作業で間引き、瑞々しい花を補給することで保たれている。早朝、寺の職衆が静かに池のコンディションを整える姿に出くわすこともある。その真摯な営みこそが、熱狂的な人気を支える美の根源なのだ。