従来、脳神経科学の主流派は、臨死体験を低酸素症や二酸化炭素の蓄積、あるいはエンドルフィンの過剰分泌に伴う生理的錯乱と解釈してきた。脳が機能停止に向かうパニック状態で、側頭葉の異常放電が引き起こす脳内メカニズムという見解だ。
しかし、近年の最先端科学、とりわけ量子力学を応用した意識モデルの登場により、従来の枠組みに大きな風穴が開けられている。ノーベル賞物理学者のロジャー・ペンローズと麻酔科医スチュワート・ハメロフが提唱する「量子脳理論」によれば、意識の本質は脳神経の化学反応にとどまらず、微小管と呼ばれる細胞骨格内で生じる量子プロセスに起因するという。つまり、心停止によって脳の生物学的機能が停止しても、量子レベルの情報構造は崩壊せずに維持される可能性があるのだ。臨床現場での観測データと物理理論の交差点で、意識と生命の境界線が塗り替えられようとしている。