結論から明かせば、ゼンリーがサービスを終えた理由は「人気が落ちたから」でも「ユーザーが離反したから」でもありません。その引き金を引いたのは、親会社である米Snap社(Snapchatの運営元)が直面した深刻な業績悪化と、それに伴う大規模なリストラ断行でした。
ゼンリーの買収経緯を振り返ると、同アプリはもともとフランス・パリの新興スタートアップ企業Zenly社によって開発され、欧州やアジア圏の若年層を中心に急成長を遂げていました。その位置情報トラッキング技術の高さと熱狂的なエンゲージメントに着目した米Snap社は、2017年に推定2億1300万ドル(当時のレートで約235億円以上)という巨額の資金を投じて買収を成立させました。買収後もZenlyはSnapchatとは独立した独立アプリとして運営が続けられ、日本国内でも「放課後の待ち合わせ」や「友だちの動向確認」に欠かせないインフラとしての地位を確立していったのです。
しかし、情勢は2022年に入って一変します。世界的なインフレの進行に加え、Appleによるプライバシー規約改定(ATT:アプリのトラッキング透明性機能の導入)によって、Snap社の生命線であったデジタル広告ターゲティングの精度が大きく毀損されました。これにより、スナップチャットを軸とする親会社の広告収益成長率は急減速し、2022年第2四半期決算では大幅な赤字を計上する事態へと追い込まれました。
株価の暴落と経営危機に直面したSnap社のエヴァン・シュピーゲルCEOは、2022年8月、全従業員の約20%(1,000人超)をレイオフ(解雇)する大リストラ策を発表。同時に「コミュニティの成長」「売上成長」「拡張現実(AR)」の3分野に全経営資源を集中させ、直接的な利益を生んでいなかった周辺事業を断腸の思いで切り捨てる方針を固めました。開発中だった小型ドローン「Pixy」の製造中止などとともに、独立運営の継続に多大なサーバー費用とエンジニア人件費を要していたゼンリーもまた、整理対象の筆頭に挙げられたのです。
公式発表資料によると、ゼンリーのサービス終了は2022年8月末に従業員へ通告され、翌2023年2月3日をもってグローバル全域で完全停止となりました。人気絶頂でありながら、親会社の財務構造改革のあおりを受けて姿を消すという、テック業界の非情な統廃合劇の典型例でした。