歴史的な史料や美術史の観点から照らし合わせると、ジブリ版の帝の造形がいかに異例であるかがより鮮明になります。平安時代の貴族社会において、美男子・美女と見なされた条件とジブリ版の描写を対比した検証データが以下の通りです。
『源氏物語絵巻』や『伴大納言絵詞』など、国宝級の平安絵巻に描かれる貴族の顔立ちといえば、ふっくらと豊かな頬を持った下膨れの輪郭に、細い線で引かれた目と鉤状の鼻を描く「引目鉤鼻」が定石でした。当時においてふくよかな顔立ちは、飢餓とは無縁の豊かな生活と名門の血統を証明する最高のステータスだったからです。
もし高畑監督が平安絵巻のリアリズムを忠実に再現していたならば、帝の顎は丸みを帯びた穏やかな下膨れになっていたはずです。しかし監督は、歴史的忠実さよりも「かぐや姫の心理的防衛」を優先しました。観客に古典の優雅さを感じさせるのではなく、突如として侵入してきた男の身勝手な欲望を際立たせるために、歴史的な美の規範をあえて逆転させたのです。