彼女の失恋歌を語る上で、音楽プロデューサーGiorgio Cancemiの存在を外すことはできない。ふたりがスタジオで繰り広げたセッションは、技巧的な音楽制作という枠を遥かに超え、ドキュメンタリーの現場に近い熱を帯びていた。
当時、関係者の間で知られていたのは、徹底した「アンケート調査」と日常のディテールへの執着だった。友人の恋愛体験談を徹底的にヒアリングし、ノートに書き留められた膨大な生の声。Giorgio Cancemiが鳴らす憂いを帯びたメロディラインに対し、西野は一切の妥協を排して言葉を当てはめていった。「この言葉だと綺麗すぎる」「本当に振られた夜は、こんな賢い考え方はできない」。そんな生々しい議論の末に削り出されたフレーズ群が、時代を象徴するキラーチューンへと結実していったのだ。
スタジオのブースでマイクを前にした彼女は、自らノートに刻んだ痛みを再体験するかのように歌唱したという。声の揺らぎや吐息の掠れまでを捉えた緻密なトラックメイクが、聴く者の耳元で直接囁かれているかのような距離感を生み出し、リスナーの孤独な部屋へとダイレクトに届いていった。