近年、SNSや動画共有プラットフォームにおいて「歌う前に首のストレッチを入念にやったら、本番で高い声が出なくなった」「プロのボーカルがストレッチ不要論を唱えている」という投稿が拡散し、ボイストレーナー界隈を巻き込んだ激しい議論や小規模な炎上へと発展した事例がありました。この噂の真相について、事態の経緯解説を行うとともに客観的なエビデンスを照合します。
事の発端は、著名なロックシンガーが自身の配信動画で「歌う前に首をグイグイ伸ばすストレッチはやめたほうがいい、声に張りがなくなる」と発言したことでした。これに対してネットの反応は二分され、「長年ストレッチを信じてきたのにショック」「いや、自分も確かに脱力しすぎてピッチが下がる気がしていた」といった一般ユーザーの声が殺到しました。
この現象の医学的・生理学的な真相は極めて明快です。筋肉を反動をつけずにじっくり30秒以上伸ばし続ける「静的ストレッチ(スタティックストレッチ)」を行うと、筋紡錘の働きが抑制され、一時的に筋出力や反射速度が低下します。スポーツ科学の世界では「運動直前の過度な静的ストレッチはパフォーマンスを下げる」という事実が常識化していますが、これがボーカル界隈において認知されていなかったために起きた摩擦でした。高音を出すために必要な輪状甲状筋の俊敏な収縮運動が、静的ストレッチによって一時的に弛緩してしまい、「高音が出ない」というトラブルを引き起こしていたのです。