多くのリスナーが「水平線」を耳にした瞬間、静かな衝撃を受けるのは、いわゆる一般的なスポーツ応援歌にあるような「夢は叶う」「努力は報われる」といった前向きなスローガンが1行も存在しない点にあります。ここに、本作の歌詞が持つ決定的な意味が隠されています。
本作が生まれた発端は、2020年度に群馬県などを中心に開催される予定だった全国高等学校総合体育大会(インターハイ)の中止でした。back numberにとって群馬はバンドの生まれ故郷であり、開会式では彼らの代表曲の一つである「SISTER」が生演奏される計画が進められていました。しかし、感染症拡大の余波により大会そのものが史上初めての中止に追い込まれます。練習に明け暮れ、集大成の舞台を理不尽に奪われた高校生たちの喪失感は計り知れないものでした。
自身も学生時代に陸上競技(やり投げ)に打ち込み、インターハイを目指して挫折した経験を持つ清水依与吏は、報道各社への発表や自身の言葉の中で、やり場のない悔しさを抱える生徒たちに向けて「何かできることはないか」と衝動的にペンを取りました。そうして急遽レコーディングされ、本来であれば開会式が開催されるはずだった2020年8月18日にYouTube公式チャンネルへサプライズ投稿されたのが「水平線」です。
歌詞の意味を紐解くと、そこには「奪われた時間や報われなかった努力は、誰にも否定できない尊い事実である」という絶対的な肯定が存在します。どれほど正しく生きようとしても理不尽な波に呑まれる世の中で、歓声の上がらない場所で流した涙を誰が見ていなくとも、その痛みを受け止めて生きていく人間の尊厳を描き出しているのです。