丙午の迷信が庶民の間に爆発的に広まった背景には、江戸時代の凄惨な実在事件と、それを描いた文学作品の存在がある。その中心人物が、恋人に会いたい一心で放火事件を起こし、火刑に処された町娘・八百屋お七だ。彼女が1683年の天和の火事に関わった際、1666年の丙午生まれであったという説が広まったことが、凶説の決定打となった。
この事件を劇的に脚色し、当時のベストセラーとなったのが井原西鶴の浮世草子『好色五人女』である。お七の激しい情念と「火」のイメージが重なり合い、「丙午生まれの女性は気性が荒く、男を滅ぼす」というパブリックイメージが定着した。後年にはNHKの時代劇や大河ドラマなどでも度々描かれ、日本人の集団的無意識の中に「丙午=波乱の年」という記憶が刷り込まれていったのである。