目標設定と行動変容の理論は進化を続けています。かつて推奨された「壮大な目標を掲げて意志の力で自分を追い込む」旧来型の根性論は、脳科学的にもバーンアウト(燃え尽き症候群)を招く高リスクなアプローチであることが定説となりました。注目を集めているのが、行動の摩擦係数を極限までゼロに近づける「マイクロ・ウィン(Micro-Win)」戦略です。
このメソッドの根幹は、失敗することが物理的・心理的に不可能なレベルまでタスクを細分化(チャンクダウン)することにあります。例えば「英語を習得してキャリアアップする」という目標を立てた場合、旧来の手法では「毎日1時間問題集を解く」と設定しがちでした。しかし、仕事で疲労困憊した夜に1時間の学習を強制することは脳にとって激しい苦痛であり、3日坊主で終われば「また挫折した」という強烈な敗北感だけが残ります。
マイクロ・ウィン戦略では、最初のステップを「英語のテキストを机の上に開いて1行だけ読む」、あるいは「リスニングアプリをタップして起動する」というレベルにまで落とし込みます。この行動を実行できた時点で、手帳やアプリに「達成」のチェックを入れます。ここで重要なのは、「行動に着手した事実そのもの」を成功体験としてカウントすることです。
着手によって脳の側坐核が刺激され、作業興奮が引き起こされると、結果として1行のつもりが1ページ読み進められるケースが多々あります。仮に1行で終えたとしても、設定した課題は100%達成しているため自己否定感は生じません。「目標設定→達成→自己肯定感の上昇→自発的な行動意欲」という正のフィードバックループを回し続けることこそが、確実に人生を好転させるアジリティ思考の極意です。