「絶望」というネガティブな単語を冠していながら、口にした者を歓喜させるこのパスタには、歴史的背景や現場の調理場から生まれたとされる複数の語源が存在します。食文化研究やイタリア料理の伝統的文献を紐解くと、主に以下の3つの有力な説が浮かび上がってきます。
第1の説は、イタリア南部を発祥とする伝統料理「スパゲッティ・アッラ・ディスペラータ(Spaghetti alla disperata)」に由来するという歴史的ルーツです。直訳すると「絶望のスパゲッティ」を意味し、冷蔵庫に何もないような絶望的に貧しい状況であっても、手元にあるオリーブ、アンチョビ、ニンニク、唐辛子といった保存食をかき集めるだけで驚くほど美味しく作れたことから名付けられたと伝えられています。イタリアの「貧民のパスタ(Cucina Povera=清貧の料理)」の精神を体現する代表格です。
第2の説は、「たとえ人生に絶望している時であっても、一口食べればその美味さに思わず笑顔を取り戻してしまう」という心理的救済にまつわる解釈です。強烈なニンニクのアロマと唐辛子の刺激、トマトの酸味とオリーブのコクが脳を心地よく刺激し、気分を前向きに引き上げる力を持つことから、料理人が客への励ましを込めて呼ぶようになったという情緒的なエピソードとして知られています。
そして第3の説は、現代の日本、特に名店「IVO ホームパスタ」などの厨房現場から囁かれるようになった実務的な理由です。黒オリーブをペースト状に細かく刻む仕込み作業が過酷で「料理人が絶望する」、あるいは皿から並々と溢れるスープパスタを食べた際、ソースが衣服に飛び散ってしまい「客が絶望する(また皿洗いが大変で絶望する)」という現場のリアルな光景から派生したとも言われています。