「血圧は年齢プラス90まで正常」という言説を耳にしたことがある方は多いはずです。この計算式に従えば、70代なら「160〜170あっても構わない」ことになってしまいますが、現在の循環器病学においてこの俗説は完全に否定されています。動脈硬化によって生じる脳梗塞や心筋梗塞の発症リスクは、年齢にかかわらず血圧の上昇に伴って直線的に跳ね上がる事実が、膨大な追跡研究で証明されているためです。
では、70代女性の血圧正常値は具体的にどこに設定されているのでしょうか。日本高血圧学会のガイドラインおよび最新の診療指針では、患者の年齢層を70〜74歳(前期高齢者)と75歳以上(後期高齢者)で明確に切り分けています。
70歳から74歳までの女性の場合、診察室での目標血圧は130/80 mmHg未満、家庭血圧では125/75 mmHg未満が標準的な基準です。一方、75歳以上の女性では、急激な血圧低下による臓器血流低下や起立性低血圧を避ける配慮から、第一段階として診察室血圧140/90 mmHg未満(家庭血圧135/85 mmHg未満)が設定されています。ただし、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)、心疾患などの合併症を抱えている場合は、忍容性(ふらつきなどの副作用が出ないこと)を確認しつつ130/80 mmHg未満を目指すのが原則です。
つまり、「70代だから140台で安心」という解釈は半分正しく、半分は危険な油断を孕んでいます。70代前半であれば140台は明らかな治療対象であり、75歳以上であっても140台半ばを超えていれば心血管リスクは着実に進行していると認識しなければなりません。