戦後日本文学が抱える最大の構造的歪みを告発した不朽の名著、それが代表作『閉ざされた言語空間』である。アメリカ合衆国国会図書館に眠る膨大な一次資料を粘り強く解読・分析することで、占領期におけるGHQ検閲の隠された全貌を白日のもとに晒し出した。
GHQによる検閲の手法は、不都合な記述を墨塗り処理するような単純なものではなかった。新聞や書籍にとどまらず、個人的な手紙やラジオ番組にまで監視の目を光らせ、何より「検閲が行われている事実そのものを隠蔽する」という極めて高度な心理的コントロールが敷かれていた。その結果、表現者たちは無意識のうちに自粛と自己規制の檻へ追い込まれ、日本語の言論空間そのものが内側から変容させられていったのである。2026年の今日、私たちが直視すべきなのは、アルゴリズムや巨大IT企業の規約によるサイレントな情報操作が、当時の検閲構造と驚くほど酷似しているという事実だ。江藤が看破した「見えない檻」のメカニズムは、デジタル時代における表現の自由と主権のあり方を問い直す、まさに言論の原点となる警告を発し続けている。